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光文社 文芸図書編集部
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絵になる決闘シーンを見てほしい(赤城 毅)

カッパ・ノベルス─新しい挑戦


伝奇時代劇
時の剣 隻眼の狼王
赤城 毅
940円(税込み)


赤城 毅
[Akagi Tsuyoshi]
1961年、東京生まれ。
1998年、『魔大陸の鷹』(三部作)でデビュー。主な作品に『麝香姫の恋文』(講談社ノベルス)、 『贋作遊戯』(光文社カッパ・ノベルス)、『帝都探偵物語』(光文社文庫)、 田中芳樹氏との対談『中欧怪奇紀行』(講談社文庫)など。



編集長 『時の剣 隻眼の狼王』の主人公・無斬祭之介は、時代小説としてはかなりユニークなキャラクターだと思いますが、そもそも、どういう経緯で生まれてきたのですか?

赤 城 それが、最初に、「無斬祭之介」という名前だけが、ふっと頭に浮かんできたんですね。ぼくは、時代ものというのは、考証や約束ごとなどの敷居が高くて、やりたい気持はあるものの、とてもできないと思ってきたのです。

が、ある朝、日課の散歩をしているときに、無斬祭之介と出て、これならば時代劇の主人公だが、はて、こんな奇妙な名前のやつは、どんな境遇にあって、何をするんだろうと考えが進んでいき、物語ができた。祭之介という男が、何らかの理由で不老不死の運命を負い、長い時をすごしていくなかで、今回の柳生十兵衛のような、歴史上の人物とかかわっていくというのが、そのベースです。

編集長 なるほど、まず主人公の人物像ができあがっていたわけですね。一方で、宮本武蔵や柳生兵庫助など、脇役がまたとても贅沢で、魅力的な人物として出てきていますね。

赤 城 有り難うございます。もっとも、そこが時代劇のいいところで、「武蔵」や「兵庫助」と固有名詞を記しただけで、読者に、ある程度のイメージを持っていただけますから。なにも、武蔵がいかに強いかなんて、説明する必要はありませんので、作者は多少楽ができます(笑)。

編集長 そんな人物群のなかで、今回、祭之介と対極にある敵として、柳生十兵衛を選んだ理由は?

赤 城 本当はね、十兵衛を書くことには、とてもためらいがあったんですよ。というのは、江戸期以来の講談でも、五味康祐さんをはじめとする先人の小説でも、十兵衛は何度となく書かれてきました。なかでも、ヒーローとして描かれたという点では、山田風太郎さんが、『魔界転生』、『柳生忍法帖』、『柳生十兵衛死す』の三部作で書かれた十兵衛の造形にはとてもかなわない。これを超えるなんて冗談じゃありません。

さりとて、十兵衛を書きたい気持はあるし、どうしようかと悩んでいたとき、ダーク・ヒーローとしてなら、少しは新しい像が出せるんじゃないかと思ったんです。そうすると、敵地に乗り込んで、シェイクスピアの一節を口にしながら、女子供までも斬っていく十兵衛というシーンが、さらりと出てきまして、これなら何とかなるだろうと。

編集長 ははあ、悪として存在する十兵衛ですね。

赤 城 で、ダーク・ヒーローにしようと考えたら、やはりお手本は大藪春彦さんでしょう。そこで、大藪さんの『野獣死すべし』の角川映画版で、主人公の伊達邦彦を演じた松田優作??ぼく、ファンだし、「さん」付けで呼ぶと雰囲気が出ないので、かれは優作と呼ばせてもらいますけど(笑)??が、実に不気味だったのを思いだして、あのイメージで書いてみようと試みたわけです。

編集長 松田優作だったんですか。確かに、この十兵衛は生き物の生存原理と違うところにいるようで、ひどく不気味です。単純に「破壊にとりつかれた」と表現するだけでは、まだ人間くささが残って、正確じゃないと思えてしまうような不気味さですね。

赤 城 ええ、今回の十兵衛は、見事なまでのエゴイストにして、とことんモンスターに描いてやろうと思いました。

編集長 ところで、祭之介が持っている刀、「野獣丸」は、日本刀ではないのですか? 大陸の剣のイメージもあるようですが?

赤 城 あ、それは、ちょっと説明が要りますね。なんでも、昔の日本の剣はまっすぐなかたちをしておりましたが、これだと、殺傷力や耐久力が劣るそうなのです。ところが、朝廷の敵となった蝦夷のほうは、すでに湾曲した剣を使っていて、技術的に優っていた。そうした優位を取り入れて、日本刀が成立していったと、非常におおざっぱにですが、言うことができるらしい。

そこで、ぼくは、時代を先取りしたテクノロジーの成果、日本刀出現以前に日本刀の特徴をそなえた一種の超兵器として、野獣丸を設定したのですね。だから、物語の起点を、湾曲した剣が出てきた坂上田村麻呂の時代に置いたりしたわけです。

加えて、お話を展開する都合もありまして……以後、さまざまな時代を舞台とする以上、形状的に、あんまり刀らしくない刀を祭之介に持たせることもできませんし(笑)。

編集長 また、野獣丸を祭之介に与えた敵役の骨噛無限斎も、強烈なキャラクターですね。

赤 城 祭之介と対になる男ですから、相当おどろおどろしくつくってやろうとは思いました。実は……祭之介にも、無限斎にも、モデルとした俳優さんがおりまして。祭之介は阿部寛さん、無限斎のほうは、もうおわかりでしょうが、『仮面ライダー』で死神博士を演じた天本英世さん、それも晩年の天本さんですね。私自身のなかでは、この配役で書いておりました。

編集長 豪華キャストですな(笑)。では、キャラクターのほかに、『隻眼の狼王』で、ここは読者に楽しんでいただきたいという点はどこでしょう。

赤 城 なによりも、絵になる決闘シーンを描こうとこころがけました。やはり、最近二十年ぐらいのあいだに、小説はずいぶんと映像的になっていると思うんです。過去の名作といわれる歴史小説や時代小説でも、本質的には読みきかせる物語だったのに対して、新しい作品は、いかに視覚的なイメージを文字で伝えるかということに腐心するようになっている。

ですから、ぼくも、いろいろと、あの手この手で、「画面」を書こうと試みました。洞窟のなかの戦いで、電光を受けた敵味方の姿が浮かびあがるとか、別の決闘では、散った桜の花びらを小道具に使ったりとか……。

編集長 「時代小説」ではなく、「時代劇」を書きたいと考えていらしたと聞いておりますが、すると赤城さんにとって、両者の区別は、絵になるか否かということ?

赤 城 え? うーん、そうですね。この作品を書くにあたって、山田風太郎さんという巨大な存在が常に頭にあったのは否定できないのですけれど、一方で、白土三平さんや横山光輝さんの忍者マンガ、さらには昔のチャンバラ映画があった。そんな作品の面白さを継いだ、歴史小説とも時代小説とも言い切れぬパワフルなものができればなあ、とは考えていました。

編集長 ほう、チャンバラ映画ですか。ということなら、決闘シーンなども神経をつかわれたことでしょうね。

赤 城 ああ、描き方しだいで、ずいぶん趣がちがってきますから。刀をこう構えて足を踏み出し、こう振り下ろしたら、こう受けられたというぐあいに書いていくと、正確ではあっても、スピード感がなくなってしまう。現実にそうであることと、物語のリアルさとは違うのです。だから、ぼくは、実際に剣を振るうのではなく、カメラを構えて殺陣を撮っている気持になって書くよう、こころがけました。

編集長 では、さらに一歩踏み込んで、おたずねします。『隻眼の狼王』で、いちばん苦労されたのは、どんなあたりですか?

赤 城 ええと……この話は、一種のトーナメントみたいなものですからね。普通の武士、柳生の忍び、転魔という怪物、柳生十兵衛、そして無斬祭之介らが、つぎつぎと戦いを繰り広げるなかで、強さのヒエラルキーをつくっていかなきゃならないし、バリエーションをつけながらも、決勝戦は、もっとも強い者同士の一騎打ちにしなければ盛り上がらない。その強さの序列や戦いの組み合わせを、物語のなかで自然に展開させていくのは、なかなか難しかったなあ。

編集長 また、いろいろと実験的なことをやっていただいておりますが、最大の「挑戦」は、どこになりますか?
赤 城 なにぶん、荒唐無稽な小説で……(笑)。ただし、いたずらや仕掛けはしてありますけれど、歴史的な事実は曲げていないはずです。たとえば、実在の人物の没年とかね。

その一方で、これまでの小説などでは、十兵衛は名刀三池典太を持っている??といっても、もとをたどっていくと、根拠は十兵衛講談のもとになった江戸後期の書物らしいんですが??ことになっているのに対し、ぼくは、十兵衛は無銘でありながら、よく斬れる刀を使っているということにしました。得物を選ばない男というほうが、ダーク・ヒーローとしての十兵衛にはふさわしいでしょう? こんなふうに、事実をふまえた上で、虚実の皮膜を行き来するという、作者の楽しみは味わわせてもらいました。
しかし……やはり、山田風太郎さんの胸を借りたつもりになって、「山風十兵衛」以外の柳生十兵衛を出したというのが、ぼくにとっては、最大の、畏怖を乗り越えての挑戦でしたよ。

編集者 いやいや、お疲れさまでした。とはいいながら、今後も、祭之介と無限斎の千年にわたる戦いを書き続けていかれるわけですね。

赤 城 はい。今回ちょっとだけ出てきた宮本武蔵の壮年のころの話もありますし、戦国、幕末、さかのぼって源平合戦の時代など、さまざまな局面で、ふたりの戦いを描くつもりです。

編集長 すると、この『隻眼の狼王』の十兵衛もそうですが、歴史上の人物たちに関する既成のイメージをこわしていくという挑戦をなさるのですか?

赤 城 われながら、だいそれたことに手をつけてしまったと思うのですが……努力します(笑)。

まあ、それとは別に、物語の大筋にかかわる部分で、祭之介が戦う理由、骨噛無限斎や転魔の秘密など、巻が進むにつれて、解き明かされていく謎もありますので、こちらも注目していただきたいですね。

(編集長・渡辺克郎)





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