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光文社 文芸図書編集部
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絶対に先を読ませない!(富樫倫太郎)

カッパ・ノベルス─新しい挑戦


長編伝奇小説
殺生石
富樫倫太郎
1.360円(税込み)


富樫倫太郎
[Togashi Rintaro]
1961年、北海道生まれ。
1998年、第四回歴史群像大賞を受賞した『修羅の跫』(後に『地獄の佳き日』と改題)でデビュー。 著作に『雄呂血』『女郎蜘蛛』『MUSASHI!』『陰陽寮』『妖説源氏物語』『蟻地獄』『闇の獄』 『箱館売ります』などがある。



編集長 明治維新の北海道を舞台に箱館戦争とアイヌ、さらに吸血鬼を連れて来るという、富樫さんならではの、スケールの大きい作品に仕上げてくださったと思います。この題材を選ばれたのはなぜですか?

富 樫 箱館戦争は昔から自分のテーマの一つだったんです。僕は函館の出身で、生まれた場所が昔ロシア領事館があった辺りなので、アマチュア時代から、小説の素材を探すとき、自分のルーツを辿るようなことをしていました。十五、六年前から国会図書館などに行って資料を調べたりしていて。題材を選ぶというより、素材をずっと蓄積していて、それが書く機会を与えられたことで、一気に出てきてしまったというところでしょうか。

 安倍泰成と殺生石、金毛九尾の狐の伝説にも自分なりに決着をつけたかったし、アイヌの話を書きたいと思っていたんです。その三つを、最初から一緒にしようという発想ではなかったんですが、一緒にしたらどうなるかな、と(笑)。

 自分が小説を書くときには、割とそういう発想をすることが多くて、それぞれ関係のない素材を無理矢理くっつけてしまう。くっつけてしまうと、そこに予期せぬ衝突や面白みが発生することがあって。今回は、三つ、ちょっと無謀かなと思ったんですが、放り込んでみた、というわけです。

 ただ、なかなか素材としては、くっつきにくいものなので、その潤滑油というか接着剤の役割を果たしたのが、サン・ジェルマンとカリオストロという突拍子もない、キャラクターです。突拍子もないが故に、何をやっても逆に納得してもらえるというか、わかってもらえますから。

編集長 アイヌを書いてみたかったということについて、もう少し詳しく教えて下さい。

富 樫 北海道に住んで、北海道の歴史を見つめると、どうしても切り離すことのできないものなんです。ただ、……こういう例えはよくないのかもしれませんが、アメリカの先住民、インディアンは、悪役としてではあっても、ドラマになることが多いんです。それは、彼らなりの抵抗をして、時には白人たちに大きな打撃を与えたこともあったからでしょう。ところが、アイヌの場合には、ほとんどありません。江戸時代の初期は、シャクシャインの乱がありますが、逆に言うと、それしかない。あとはもう、一方的にやられっぱなしで、どんどん悲惨な目にあっていく。明治維新があと十〜二十年遅かったら、民族として絶滅していたかもしれない。皮肉なことではあるのですが、明治維新によって土人保護法が制定されて、非常に低い地位に設定されてはしまったんですが、それでも法律的な歯止めができたことで、民族として生き延びることができたんです。

 そういうわけで、北海道の歴史とアイヌの歴史はどうしても切り離すことはできないんですが、アイヌだけを描こうとすると、これは非常に難しい。ドラマにしづらいんです。それでも、自分としては何らかの形で書きたいと考えていました。

 タリコナたち登場人物は僕が作ったキャラクターですが、彼らを取り巻いている環境や当時の事情は、創作ではありません。実際にあった話ばかりなんですね。そのあたりが、今まで自分の書いてきた小説とはちょっと違うところじゃないか、と思っています。あまり楽しんで読める部分ではないかもしれないんですが、ぜひ読んでもらいたい部分です。

編集長 一方で、いわゆる悪役側になるサン・ジェルマンにもドラマがあるわけですが、シヴァの女王との悲恋というのは、最初から描こうとお考えになっていたんですか?

富 樫 そうですね、それはありました。サン・ジェルマンも、悪人ではありますが、考えてみたら哀れな人物で、二千八百年も生きて、金もあるし何でもできるんですが、心は寂しいんですね。自分が愛した女を失ったがために。書いていくうちに、サン・ジェルマンとシヴァの女王の関係が、タリコナとホントルスの関係の対称になっているというか、鏡で映したような形になっていることに気づきました。

この二組のカップルの話は、ある種ファンタジーというかメルヘンなんですね。

編集長 サン・ジェルマンとカリオストロをこの小説に出そうと考えられたのは、どの辺がきっかけなんですか?

富 樫 前々からヨーロッパの歴史とかオカルト本を読んで、「向こうにも変なヤツがいるんだな」とは思ってたんです。どこかで使ってみたいと考えていました。ただ、ヨーロッパを舞台にして小説を書くのは、あまり気が進まなかったので、なかなか登場させる機会がなかったんです。ソロモンやシヴァの女王も、自分にとっての「西洋の変なヤツ」という一群の中にはいたので、今回、それもくっつけてしまえ、と。

編集長 タリコナたちアイヌももちろんそうですが、サン・ジェルマンや安倍泰成もまた、逃れられない重い運命を背負った人物として設定されていますね。何千年も生きていますし。彼らのような不老不死の人物を描くのは、タリコナや土方歳三のような普通に生きて死ぬ人間を描くのとは違う感覚なのですか?

富 樫 別に区別はないんですけどね。不老不死というのは、未だに達成できていないものですし、昔の王様や権力者は、かならず欲しがりましたよね。それで、考えてしまうんです。不老不死というのはどういうことなのだろう、どんないいことがあるのだろう、と。その答えが、今でも僕自身わからないので、繰り返し書いているのでしょうね。

編集長 お書きになっているとき、読者はどんな風に感じるだろうということは考えますか。あるいは、「こういう風に面白がらせたい」とか。

富 樫 伝奇小説を書く場合には、話をどんどん拡げていきます。縦軸と横軸ということを考えていまして、縦軸は時間の流れ、横軸は空間の広がりですね。今回の作品では、箱館戦争が舞台ですが、非常に狭い範囲で起こっているんです。かといって箱館戦争を全国に拡げるわけにはいきませんので、縦軸を拡げようという発想をしました。サン・ジェルマンが登場する二千八百年前から幕末までというように。ですから、その広がりを楽しんでいただけたら、と思いますね。

それから、気をつけているのは、先を絶対に読まれないようにすること。僕は小説を書くときに、先のことをあまり考えないで書いていくんですが、それは横着なわけではなくて、最初に道筋を決めてしまうと、どうしても先行きを読まれてしまうからです。先を読まれないためには、作者も先がわからなければいい、と。

編集長 それは逆に、先の展開に不安を感じられたりはしないのですか?

富 樫 それは、この小説に限らず、常にあります。ギリギリまで最後のまとめ方がわからないということもよくありますね。もう、スリルですけどね(笑)。詰まることもあります。ただ、苦しめば苦しむほど、いい結末が出来上がるという実感がありますから。

 小説の登場人物にも、進む道が二つあれば、厳しい道を選ばせます。どんどんキャラクターを追い込んでいく。それはある意味では作者を追い込むことにもなるわけで、まあ、自分が苦しいわけですけど。

編集長 この作品を書かれていて、一番苦労したのはどの場面ですか?

富 樫 先ほど舞台設定の上で、時間と空間を拡げるという話をしましたが、実際にストーリーを書くときには、僕の場合は割と絞った時間を書くことが多いんですよね。たとえば『陰陽寮』はシリーズとして十冊ほど書いていますが、物語の中の時間としては、一年も経っていないんです。デビュー作の『地獄の佳き日』も一カ月くらいの話ですし。ところが、『殺生石』では、サン・ジェルマンがフランスの軍事顧問団としてやってくる一八六七年の一月から、本題である箱館戦争が始まる一八六八年の秋まで、結構間があるんですね。この点に一番頭を悩ませました。その間、サン・ジェルマンは日本に来てから一体何をしているのだろう、と。間延びさせたくありませんでしたから。

編集長 この作品の中で、一番好きなキャラクターは誰ですか?

富 樫 そうですね……。サン・ジェルマンもタリコナも好きなんですけど、カリオストロですかね。僕、ああいう破壊的な乱暴者がわりと好きなんです(笑)。読む方の好みとは一致しないかもしれませんが。自分が小説を書いていて、登場人物に肩入れして何をやらせるかと言えば、悪いことをやらせたいんです。現実にはできませんから、どんどん乱暴をやらせようと。作者の日々の欲求不満を肩代わりさせていまして(笑)。ですから、カリオストロのような人間社会の倫理観に縛られない悪役が好きですね。現実にいると恐ろしいですけど。

(編集長・渡辺克郎)





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光文社/ノベルス編集部
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