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第9回 日本ミステリー文学大賞
新人賞
大賞 日本ミステリー文学界の発展に貢献した作家もしくは評論家に贈呈されます。作家、評論家、出版関係者などへのアンケートなどを参考に候補者を推挙し、選考委員会によって決定されます。
主催:光文シエラザード文化財団

大賞(赤川次郎氏)
赤川次郎
あかがわ・じろう
1948年福岡市生まれ。桐朋高校卒業後、日本機械学会で学会誌の編集に携わる。
'76年「幽霊列車」で第15回オール讀物推理小説新人賞を受賞。'77年長編『死者の学園祭』『マリオネットの罠』を刊行。'78年刊の『三毛猫ホームズの推理』がヒットし、作家専業となる。『セーラー服と機関銃』('78)をはじめ、映像化された作品も数多い。「永井夕子」「三姉妹探偵団」「大貫警部」「杉原爽香」などシリーズ・キャラクターは主要なものだけでも10を超す。また新シリーズ「闇からの声」が話題を呼ぶ。
オリジナル著作は470点を超えている。
'80年『悪妻に捧げるレクイエム』で第7回角川小説賞を受賞。
現在、金沢学院大学文学部客員教授。




【愛蔵版】三毛猫ホームズの推理

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カッパ・ノベルス
血を見ただけで卒倒する女性恐怖症の片山義太郎刑事が、女子大生殺害事件の捜査に絡んで、女子大の寮に乗り込むことになった。片山は捜査中の縁で三毛猫のホームズを引き取ることになるのだが、しだいに彼女がタダの猫ではないことに気がついて──。

大賞講評(五十音順)

阿刀田 高

この日本ミステリー文学大賞のシステムにつまびらかでないかたがたには疑問があったにちがいない。なぜ、歴代の受賞者の中に赤川次郎の名前がないのか、と。まさしく赤川次郎さんは、この賞にふさわしい実績と実力を備えた作家である。

ただ光文シエラザード文化財団の内規として、もう一つの賞、すなわち日本ミステリー文学大賞新人賞の選考委員は大賞の候補者としないこととなっている。納得がいくような、いかないような……。しかし、赤川さんがそちらの選考委員を長く務めたせいで今日まで待たなければいけなかったのは紛れもない事実であった、と私は信じている。

いよいよ解禁。こまごまと業績を説明する必要もあるまい。自明の結果である。一人のファンとして心から「おめでとうございます」と慶びを訴えたい。


北方謙三

赤川次郎氏に、全会一致で決まった。

氏の、ミステリー界、小説界への功績を、いまさら言い立てるのも、馬鹿げたことだという気がする。この賞が、氏を待っていたと言っても、過言ではあるまい。

氏の受賞によって、この賞はまた新しく大きな力をつけることになった。現役ばりばりのトップランナーの受賞によって、賞の対象も大きく拡がったと言えるのだ。それが、ミステリーに力を与えるという作用を、発揮していくであろうことは間違いない。賞のありようはこのように変貌していくものだが、二、三回前から出てきた傾向が、氏の受賞によって決定的になったのだ、と私は思う。実に発展的、建設的な変貌である。

日本ミステリー文学大賞は、今後、ミステリー界をリードする賞として、その存在感を大きくしていくであろう。

賞のためにもミステリーのためにも、氏の受賞を喜びたいと思う。


権田萬治

ホラー感覚の作品や甘美な恋愛小説、近未来サスペンスなど、赤川次郎氏の作品の流れは非常に多彩だが、その中でも、現代的な若者を主人公とする軽妙なユーモア・ミステリーこそ、氏の最も独創的な資質が発揮されたジャンルだと思う。

美人女子大生に振り回される中年警部とか、推理する三毛猫と血を見るのが大嫌いという刑事とか、ヤクザの組長になる女子高生とか、これまでのミステリーには見られない奇想天外な着想とユーモアたっぷりの軽快なストーリー展開で、あっという間に人気作家になり、作家生活三十年の今もまた、旺盛な執筆活動を続けている。

まさに今回の受賞は当然ともいえるが、さまざまな奇抜なシリーズ・キャラクターを生み出し、読者を魅了し続けてきた氏が、これからも健康に留意され、末永く活躍されることを、心から期待したい。


森村誠一

遅きに失した受賞である。これからは本賞の「遅きに失する受賞者」が犇(ひし)めいているが、その中でも最も遅きに失している。

『幽霊列車』以後三十年、著作四百七十冊を超え、総発行部数は正確な数がつかめないほど巨大である。

赤川ミステリーは、従来の重量級偏重の日本ミステリーの流れを変え、深刻、陰惨、血なまぐさい殺人劇に軽妙なユーモアの新風を吹き込み、まったく新しい読者を獲得したのみならず、ミステリーのイメージまでも変えてしまった。

三毛猫ホームズを中心とするシリーズキャラクターの織り成す多彩な作品群は、人生の重荷や仕事のストレスにあえぐ人々にどんなに安らぎと救いをあたえたことか。本賞も赤川氏の受賞によって、大賞(グランプリ)としての重みと歴史を得て、不動の位置を占めたと言える。しかもまだ赤川ミステリーは途上にあり今後の無限の可能性を孕(はら)んでいる。それは同時に本賞の未来をも予告するものである。


第9回日本ミステリー大賞の選考会は、二〇〇五年十月二十七日午後四時より、第一ホテル東京において開かれ、選考委員により赤川次郎氏を受賞者と決定いたしました。

大賞
新人賞 広義のミステリーで、日本語で書かれた自作未発表の小説を公募。選考委員会によって決定されます。
主催:光文シエラザード文化財団

受賞作なし


新人賞講評(五十音順)

有栖川有栖

今回から本賞の選考に加わるにあたり、新人賞の候補作を読んでいることを忘れて没頭してしまうような作品との出会いを期待した。が、残念ながらそれは次回への持ち越しになってしまった。

五編の最終候補作について寸評を付す。 『新生の季節』は大きな破綻もなく、するすると読ませるのだが、ハードボイルドとしては文体や人物造形の魅力を欠き、都会的・現代的な風俗の羅列に流れた感がある。真相は早くから想像がつき、予想の範囲内。構成の工夫もあまり効果を上げていなかった。

『レッドストーム』は、中国の大規模なテロ攻撃を受け、日本が危機に陥る様を描いた近未来小説。反中プロパガンダ小説の様相を呈しているため、エンターテインメントになっておらず、仮に反中に共感する読者だけを想定しているのだとしても、情報量やアイディアが不足している。結末については「それですむなら苦労はない」と言いたい。

『どつぼ』は、書き手の筆力は感じるのだが、主人公がどんどん悲惨になっていく過程がぼんやりと怖くて、ぼんやりと滑稽で、どうにも中途半端。怖がらせたいのか、笑わせたいのか、ということすら最後まで判然としなかった。それが狙いではなかろうに。

『ストラスブールの羊飼い』は、絵画取引をからめた誘拐もの。出だしは快調に思えたが、事件が動き始めると綻びが出て、ある箇所で「この人物が関係している」と知れてしまう。誘拐ものはサスペンスを演出しやすい反面、先行作品に傑作が多いために、新人が挑戦するとなると難易度が高くなる。このネタではまだ弱かった。

『かげろふ鬼の棺』は、瀬戸内海の小島が舞台の本格もの。道具立ての面白さでいったんは引き込まれたが、ギミックや技法が生煮えで整理がついておらず、「本格のそぶり」で終わっている。作者が本格の面白さを理解しているのかどうかも伝わってこなかった。


北村 薫

どうしても、受賞作を出すことが出来なかった。傾向の違った五編が並んだものの、積極的に推せる作品がないという点で、全選考委員の意見が一致してしまった。まことに残念である。来年度に期待したい。

中では『新生の季節』が、最もすらすらと読めた。だが、ヒロインが古いタイプの男性の夢想する、ひとつの典型的女性像であるように、物語の流れもまたよくある私立探偵(主人公の職業は弁護士だが)ものの典型にとどまっていた。

『ストラスブールの羊飼い』を読み始めた時には、「今年はこれかな」と思った。出だしは、まことに快調であった。紙幣番号を書き写す場面に「交通課の婦警の応援を受け」と、ひと言加えるような、細部への配慮もあった。これは大切なことである。しかし、読み進むにつれ、犯行方法や、絵画に関する部分で、難点が続出するので首をかしげてしまった。

『かげろふ鬼の棺』は、ミステリの様々な要素を並べて見せる。そういう面白さはある。わざと古めかしい感じを出し、楽しませてくれるのかと思った。冒頭に意味ありげなプロローグを入れたり、横溝風、乱歩風、あるいは叙述トリック風の部分等々が並ぶ。だが終わってみれば、その幾つもの要素も、並べたというだけで、生かされていなかった。

『どつぼ』は不思議な話で、まことに個性的ではあった。しかし、いかにも強引な進め方で、展開に無理も生じていた。活字の組み方の工夫も、特異であるだけに、先行する作と意味や効果を比較されることになり、損をしている。まずは、物語本来の力で読ませてほしい。

『レッドストーム』は一面的で平板になってしまった。敵方に、もっと魅力的で共感出来る人物がいたら、物語の幅が広がったろう。また読者は、「最後に、この大変な事態がどう解決されることか」と思い、そこに作者の工夫やはなれわざを期待して読み進む。その肝心な点で、あまりにも物足りなかった。


高橋克彦

結果は厳しいものとなった。新人賞はレースでもあるわけだから、多少の傷があったとしても候補作品の中から一番のものを選び出せばいいとの考えもあるが、それだとすべてが安易になっていく。これはお祭りではない。プロの作家を発掘する目的で作られた賞である。もちろん人間は成長するものなので書き続けるうちに堂々としたプロになれる人も居る。未熟でもその可能性があれば推すにやぶさかではない。実際何人かにそれを感じた。しかし残念ながら欠点の大きさがその可能性すら覆い隠したということである。

『レッドストーム』破天荒な物語作りは嫌いではない。が、それを支えるのは裏側のリアリティだ。ただ次々に起きる事件に主要人物たちが振り回されるだけで心の動きがない。

『新生の季節』女主人公の設定がなに一つ生かされていない。警察官が事件に遭遇しながら職業意識が働かないようでは終わりだ。ならばなぜこの設定にしたか理解に苦しむ。

『ストラスブールの羊飼い』せっかく魅力的な導入なのに、早いうちからだれにも犯人の見当がつく腰砕けの展開となる。それをミスリードにする一工夫があれば高い点を得られただろう。

『かげろふ鬼の棺』現実には有り得ない展開が目立った。偶然とぶつかる場面も多い。肝心の宝探しのわくわく感もそれで薄れる。作り過ぎて逆に破綻した。もっとオーソドックスに話を一つに絞るべきだと思う。

『どつぼ』書きたいものをちゃんと持っている人とは思うが、幽霊をここまではっきり持ち込めばもはやミステリーとはならない。主人公一人の幻覚にとどめるべきだ。それで読後感が曖昧なものとなった。

むろんそれぞれにいい部分があるから候補作となったのだが、そこから先に突き抜ける新鮮な発想に欠けていた。六百枚近い作品を拵えるのは難仕事で、それをとりあえずはやり遂げたのだから、さらなる高みを目指す努力を続けていただきたい。


田中芳樹

今回、残念ながら激論の生じる余地もなく、受賞作なしと決定した。

選考委員として新顔の分際で僭越ではあるが、作品世界の多様性という点においては失望が大きかった。江戸時代の長崎を舞台とした時代ミステリーもなく、ルネサンス期のフィレンツェに材を取った歴史ミステリーもなく、サイエンス・ミステリーもホラー風味の伝奇ミステリーもピカレスク・ロマンも秘境冒険小説もなかった。二時間ドラマの原作を募集しているのではないのだから、もっと多様な作品を読ませてもらいたい。

また最終選考に残った五作品のうち四作品まで、犯行の原因が家庭・家族内に存在する。べつに社会派を気取る必要もないが、どうもそろって内向きだな、という印象を禁じえない。

個々の作品について述べると、まず『ストラスブールの羊飼い』はタイトルに惹かれてつい点を加えてしまったが、それでも受賞のレベルには達しなかった。ごく早い段階で犯人がわかってしまうという致命的な失点を、最後まで挽回できず、不自然な展開をかさねて傷口をひろげる結果となった。

『かげろふ鬼の棺』は「金田一少年の事件簿・女子高校生版」を狙って、およばなかった作品。ギミックは豊富だが、ほとんど生かされていない。じつのところこのレベルの作品は、いわゆるライトノベル系ミステリーにはいくらでもあるが、「萌え」系のイラストでごまかせない以上、文章で勝負してもらうしかない。

『レッドストーム』は排外的な時流に迎合したキワモノという以前に、支離滅裂で小説の体をなしていない。『新生の季節』はハードボイルドをよそおった願望充足小説でしかなかった。『どつぼ』はタイトルをふくめ、なぜここまで読者を暗然とさせねば気がすまないのか、理解できない。いずれも読者は眼中になく、自己満足で終わっている。

次回に期待するや切である。


第9回日本ミステリー文学大賞新人賞は応募総数百四十編の中から、第一次〜第三次予選を行ない、二〇〇五年十月二十七日午後四時より、第一ホテル東京において開かれ、選考委員による審査の結果、受賞作なしと決定いたしました。

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